吸音材についてはエンクロージャーのところでも少し触れさせていただきました。
最初に吸音材とエンクロージャーの材質の基本的です。
エンクロージャの材質別の透過損失
『吸音材とエンクロージャー材質の基本的な特徴』
以前の記事でエンクロージャーについて少し触れましたが、今回は改めて「吸音材」と「エンクロージャーの材質」それぞれの基本的な特徴を整理してみます。
『 吸音材の特徴』
- コットン
柔らかく繊維が粗いため、高音域の拡散や反射の緩和に向いています。ユニット近傍に薄く配置すると効果的。 - フェルト(低密度)
中音域を広く吸収。厚みを持たせることで定在波の抑制に役立ちます。 - フェルト(高密度)
薄くても抵抗が強く、中低音域の速度成分を減衰させる“抵抗膜”として機能します。 - グラスウール
繊維が細かく流れ抵抗が大きいため、低音域の減衰に有効。エンクロージャー奥や側壁に量を確保すると効果が出やすい。 - 極低域(100 Hz以下)
波長が長すぎるため吸音材ではほぼ対処できません。ここは構造や材質そのものの損失に頼るしかありません。
『エンクロージャー材質の特徴』
- MDF(中密度繊維板)
加工しやすく、比較的安定した遮音性能。中域の響きが素直で、定番の選択肢。 - 素焼き(陶器系)
密度が高く内部損失もあるため、中低域の響きを抑えやすい。独特の質感を持ち、設計次第で個性的な音になる。 - コンクリート
非常に重く遮音性能が高い。低域の漏れを抑えるには最強だが、加工性や重量の問題が大きい。 - 金属(SUSなど)
質量があれば遮音性は高いが、共振しやすい。制振材との組み合わせが必須。 - 木材(合板など)
中程度の遮音性能。密度の高い合板は有利だが、材質によって響きが大きく変わる。
『吸音材配置の基本思想』
筒状エンクロージャーでも前面ユニットでも、基本は「前から奥へ勾配を作る」こと。
- ユニット近傍 → コットンで柔らげる
- 中間 → 低密度フェルトで速度成分を吸収
- 奥 → 高密度フェルト+グラスウールで抵抗と量を確保
この順序で配置すると、音の進行方向に沿ってインピーダンスが連続的に変化し、反射を減らしながら広帯域にわたって吸収が効いてきます。吸音材を詰めすぎてコーンの動作を妨げると本末転倒となりますので、音を聞きながら確認することが重要です。
『 低域への現実的アプローチ』
100 Hz以下は波長が長すぎて、箱内の吸音材では対処しきれません。ここは「吸う」のではなく「減衰させる」方向で考えます。
- 非対称形状やリブ構造 → 定在波を崩す
- 抵抗セルや小空洞(マフラー構造) → 内部モードのQを下げる
- 材質の内部損失 → コンクリートや粘弾性材を組み合わせて壁自体で散逸させる
吸音材は「内部の空気をどうブレーキをかけるか」、エンクロージャー材質は「外部に音を漏らさない壁をどう作るか」。両者は役割が違いますが、どちらも音の純度を決める重要な要素です。
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