タイムドメイン 由井氏から、グランドアンカーの重量はムービングマスの1000倍は必要とお教えいただきました。その根拠について深堀りしたいと思います。
Tang Band W3-1878 は、軽量ムービングマス(約2.0g),長ストローク(4.2㎜)と広帯域特性(75Hz~20kHz)を持つネオジウムマグネットの高性能フルレンジユニットです。(ユニット重量0.8kg)
『ムービングマスの反力とユニット全体の変位について』
スピーカーのムービングマスは入力電流による力F=BLIを受けて加速度aが発生します。
ムービングマスが加速度 a で動作すると、反力 F=ma(m:ムービングマスの質量 a:ムービングマスの加速度) がユニット全体(M)に作用します。※①
このときのユニット全体に加わる力をF,ユニット全体の加速度をAとするとF=MA。この式に※①を代入すると A=(m/M)aになります。
a(ムービングマスの加速度)がA(ユニット全体の加速度)に対して0.1%(0.001)になる場合は、
M=m/(A/a)となり。加速度の減衰と重量は比例関係にあります。M=1000m
Tangband W3-1878の最大ストロークは 4.2mmですので、M=1000の時、ユニット全体の変位は0.0042mm(4.2μm)となります。ムービングマスは2.0gですので、ユニットの重量は800gですので1200g程度の追加の場合の計算値です。(ユニットが剛体の場合)
『グランドアンカーとムービングマスの関係』
スピーカー設計において、ムービングマス(m)と構造体質量(M)の比率は、音の時間軸再現性に直結する重要な要素です。M/m を大きくすればするほど、ムービングマスの反力によるユニット全体の変位は小さくなり、基準位置が安定します。これは理論的にも明快で、加速度比によって支配されます。
しかし、現実の設計では「質量を増やせばそれで良い」という単純な話ではありません。
『剛性と共振の落とし穴』
ユニットの構造剛性が不足していたり、グランドアンカー(デッドマス)の形状や材質が不適切であれば、質量が十分でもユニットが変形したり、局所共振を起こす可能性があります。特に、結合部にコンプライアンス(柔らかさ)が残っていると、反力が逃げずにユニットに戻ってきてしまい、時間軸の乱れや音像の濁りにつながります。
このような理由から、追加でグランドアンカーを取り付ける際には「リジッドに結合すること」が極めて重要です。これは、タイムドメインの由井氏が一貫して強調されていた点でもあります。
『Yoshii9のアンカー構造に見る設計思想』
Yoshii9のようなスピーカーでは、ムービングマスの動作方向が上下(Z軸)であるため、慣性も上下方向に作用します。これに対して、垂直方向に棒状のデッドマスを取り付ける構造は、上下方向の基準位置を安定させる上で非常に合理的です。
しかしながら、振動の縦波(Z軸方向の圧縮波)はそのままグランドアンカーに伝わり、反射してユニットに戻る可能性があります。これは音質に微細な影響を与える要因となり得ます。
『形状と取り付け方』
グランドアンカーの形状や取り付け方は、単なる機械的支持ではなく、時間軸に正確な再生をするため重要な設計要素なのです。
- 質量は十分か?
- 反力の流れは直線的か?
- 結合は剛体的か?
- 共振モードは帯域外に逃げているか?
- 反射波はどこへ向かうか?
これらを総合的に設計することで、ムービングマスの動作が純粋に音として現れ、構造体の揺れや反射が音に混ざることを防げます。
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