タイムドメイン社の技術資料を元にタイムドメイン社の製品以上の音質を目指してスピーカーを製作しました。比較対象の音はONKYO GS-1です。
本稿では、タイムドメイン社の技術資料を基に、高音質スピーカーの自作に挑戦した過程とその成果についてご報告いたします。音質の比較対象としてONKYO GS-1を用い、客観的な評価を試みました。
図1
図1,2のタイムドメイン理論では、以下の3点が音質向上における重要な要素とされています。
- コーンの正確な動作環境の構築
- ユニット背面音の徹底的な遮断
- エンクロージャーの振動抑制
これらの要素を踏まえ、タイムドメイン社の代表的な製品であるYoshii9を詳細に分析しました。
Yoshii9の設計思想と潜在的課題
- コーンの正確な動作環境
- Yoshii9では、ゲルによるユニット支持と、コーン質量の1000倍を超えるグランドアンカーにより、コーンの正確な動作を追求しています。
- ゲルの振動吸収率には限界があり、微細なコーンの動作始点のずれが生じる可能性があります。また、ユニット背面とエンクロージャー間の狭小な空間は、コーンのストローク時に圧損を引き起こし、動作を阻害する要因となり得ます。
- 背面音の遮断
- 高比重のアルミニウム製円筒エンクロージャーと内部吸音材により、背面音の漏洩を抑制しています。
- しかし、低音域においては、高比重のアルミニウム円筒エンクロージャーとはいえユニット背面からの音の漏洩が確認され、音の濁りにつながっていると推測されます。
- エンクロージャーの振動抑制
- 特殊加工を施したアルミニウム製エンクロージャーは、高い振動抑制効果を発揮します。
- 採用されているアルミニウム製筒状のエンクロージャーは特に低音域を遮断するための絶対的な質量が不足しています。
これらの推測に基づき、以下の点に重点を置いてスピーカーを製作しました。
- 入力された信号に対してコーンが理想的に動作できる設計
(トータル的な背圧のコントロール、コーンの動作を律速している部位の改良) - バスケットとエンクロージャーの圧損を低減する構造
- 吸音材の量、配置の適正化
- ユニット背面の音の徹底的な減衰の制御。
- 低域遮音性能を高め、振動を抑制するエンクロージャーの質量増加
完成したスピーカーとONKYO GS-1との比較試聴の結果、自作スピーカーは、より高い解像度とクリアな音質を実現しました。特に、低音域の力強さと音場の広がりにおいて、顕著な優位性が確認されました。
結論
タイムドメイン理論に基づくスピーカー自作において、その核心を理解することは極めて重要です。グランドアンカーや筒型、卵型といった形状は、あくまで理論から導き出された具体的な応用例に過ぎません。15年以上にわたりタイムドメイン理論を追求し、スピーカーの自作を重ねてきた経験から、ようやく理論の本質に近づけたという確信を得ています。
単に形状を模倣するだけでは、真のタイムドメイン理論に基づく音質には到達しえません。やはり、直接放射型のユニットの特徴を理解するとともに、タイムドメイン理論の究極の形とも言えるGS-1の音質を体験することで、音の本質を理解した上で開発を進めることが、正しい方向性を見出すために不可欠であると痛感しています。
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