素人ながらの真空管アンプのつくりかた

 

はじめに:満足できる音を求めて

不幸にも、自分が本当に納得できるアンプに出会うことがありませんでした。
市販品をいくつも試しましたが、どれも音にどこか物足りなさを感じてしまう。

そんな流れで、まったくの素人ながらアンプの自作に手を出すことになりました。
最初はトランジスタ、いわゆる“石”のアンプから。ネット上で「音がいい」と評判だったクラスA動作の回路に取り組みましたが、これもどうにも納得できず……。

そこで思い切って、無謀にも真空管アンプにチャレンジ。
最初は手探り状態で、キットを買って説明書どおりに組み立てるところから始めました。感電したり、はんだでやけどしたりしながらの作業でしたが、それでも少しずつ進めていくうちに、音が鳴るというだけで嬉しかったのを覚えています。

そこからは、部品や配線を交換しては音の違いを確かめる……という作業をひたすら繰り返しました。
しかし、やはりどこかに不満が残る。そんなとき、SamizuAcousticsさんに出会い、ファインメットコアの存在を知ることになります。ここから私のアンプづくりが大きく変わりました。

私の真空管アンプのつくりかた

真空管アンプは構成がシンプルでありながら、設計と部品の選び方によって出音が大きく変わります。ここでは、2段または3段増幅・シングル・無帰還という構成を前提に、基本的な設計の考え方と部品の選定についてまとめます。


■ 一般的な真空管アンプの構成

よく目にする真空管アンプは、増幅段とパワー段の2つのアンプから構成されます。この2つは役割が異なります。そのためいつも私は、1台の真空管アンプの中に、増幅段とパワー段の2つのアンプで構成されていると考えます。そのため、増幅段とパワー段を別々に作ることもよくあります。


■ 増幅段の真空管に求められること

増幅段は、信号源からの電圧信号を扱う部分です。
ここでは、入力信号に対してできるだけ忠実に増幅できることが求められます。
回路的には増幅段に対する出力インピーダンスが低いほうが良いように感じます。(トランス結合,SRPP)


■ パワー段に求められること

   駆動するスピーカー、使用する音量に合わせて適切なものを選定する必要があります。
能率の高いスピーカーまたは使用する音量が一般家庭の室内ぐらいですとMT管のほうが響きが少なく有利だと思います。


■ トランスの種類と容量

● トランスコアの種類

  • オリエントコア
     方向性電磁鋼板。コストパフォーマンスが良く、扱いやすい。一般的なスピーカーならオリエントコアで十分。

  • ファインメットコア
     予算に余裕があればこれ一択。使用する場合は部分的にではなく、すべてファインメットコアで統一します。ただ、使用する部品、回路特性にシビアで調整が非常に難しいです。

● 役割別のトランスの考え方

  • 電源トランス:可能な限り余裕のある容量が望ましい。最低でも必要電流の2倍。

  • チョークトランス:小容量のものを回路の分岐ごとに配置すると、ノイズ対策に有効。小容量なものを逆起電力の処理ように適切に配置。

  • 平滑化用のチョークトランス:チョークインプットの場合は20H以上確保。コアサイズは可能な限り大きく。

  • 出力トランス:容量は低域再生能力に大きく関わる。できるだけコアボリュームに余裕を持たせる。


■ 配線の考え方

配線は振動やノイズの影響を受けるため、材料と構造に配慮します。

  • 基本的に単線で構成し、振動モードを単純にする

  • 配線が長くなる部分では配線抵抗や寄生容量にも注意する

● 各配線の選び方

  • 信号入力:柔らかく細い線を使用。振動によるマイクロフォニックノイズを抑制。

  • 増幅段→パワー段:高電圧対応が必要。絶縁に配慮しつつ、なるべく細く柔らかい線を選ぶ。

  • パワー段→スピーカー端子:電流が流れるため、太さが必要。ただし、硬すぎる線は不要な振動を伝えるため注意。


■ コンデンサーの選定

  • 位相特性に優れたポリプロピレンフィルムを基本とする

  • HIOKI 3522で位相、インピーダンス特性を測定して選別

  • 制作時に実際に音楽を聴きながら容量や構成を微調整するのがよい

  • コンデンサー本体の機械的な共振音(叩いた音)も参考にする


■ 真空管の選定基準

  • 真空管選別時は電気的な特性よりもガラスを指で軽くはじいたときの響き方を重視

  • 電気的特性(μ、gm、Rpなど)は目標とする回路とできるだけ整合性をとる

  • 出力に応じてMT管、GT管などを選定。

  • 3極管または5極管の3極使用が基本。


■ 回路の基本構成

  • 無帰還(NFBなし):空間の再現がしやすい。構成がシンプルになる反面、回路や部品の精度が音質に直結。

  • シングル構成:倍音成分が自然で、耳に馴染みやすい。出力は抑えられるが、位相の安定性は取りやすい。

  • 5極管:基本的に3極で使用するが、能率の低いスピーカーや音量が必要な場合は5極と3極の切り替えスイッチをとりつける。

  • アウトプットトランス:一次側 二次側ともに実際に音を聞きながらどの端子を使用するかきめる。

  • 部品数:必要最小限にする。必要以上に省かない。

  • 電源回路:チョークインプット、固定バイアスが基本。取り扱いやすさ優先の場合はコンデンサーインプット、自己バイアス。HIOKI 3522で電源の位相、インピーダンス特性を調整する。 


おわりに

真空管アンプの設計は、回路と部品の選択の積み重ねです。派手な工夫よりも、基本的なことを丁寧に行うことが安定した音につながります。部品の仕様だけでなく、音を聞きながら微調整する柔軟さが仕上がりに影響します。

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